いただきものコラム

　小学校６年から中学２年まで「土曜日午後７時」は胸騒ぎに包まれていた。
　ああ、部活なんてクソ喰らえ。何で連続３０本サーブが入らないと帰っちゃダメなんだ？　この鬼！　試合になんか出してくれないくせに―――！！！　と万年補欠女は叫んだ。

　「ボールが足りません」何てコトになったらダッシュで探す。この時ソワソワしてる女は同類だ。一応部活時間は６時まで。先輩が「ミーティング」と称した趣味の後輩いびりをしようとか思う前に逃げるが勝ちである。つかまったらテレビに間に合わないじゃないかい！

　ダッシュで家に帰って、茶の間のテレビをつける。プロ野球の見たい父は嫌そうな顔をする。兄、弟も惰性で見入る。母だけがのほほーんと夕飯のエビフライを盛りつけていたりする。庭で犬がボーっとしている。嗚呼、なんてお約束な日本の中流家庭！！

　情けない時報の後、怪しげな箱が開いて中から光が飛び出すアニメーション。もっと怪しげな鎧を着た兄ちゃん達がダッシュで走る走る走る！！！　元気なオープニングだ。カゲヤマノブヒロ、この当時でもけっこう年の筈。喉の血管切れないか？　……などと余計な心配はしない。

　女子中学生ってのは謎である。ちょっと気になる男の子とたまたま目があっただけで「きゃー」なんて言ってる乙女盛り花盛り。その対象が学欄着てるくりくりボーズでも、ローラースケートを履いて歌真似しながら踊る軍団でもなく、二次元世界で見るからにわかりやすーい悪と戦う兄ちゃん達だっただけだ。好きなキャラクターの横顔、決めセリフ、そして必殺技の（無意味な）華麗さに痺れちゃって参っちゃってまいっちんぐ。

　番組が終わると自室にこもり、絵に描いた。……だが下手くそだった。超自己満足だった。下手くそなイラストが美麗な登場人物に見えた。信じる力は偉大である。偉大過ぎちゃって自分をもてあました。
　成績は悪かった。でも気にしない。顔も悪かった。でも気にしない。暗黒の煩悩に向かってひた走る女子中学生を誰が止められよう？　そんな感じでその番組が終わるまで、煩悩の嵐に支配され続けた。っていうか、その嵐に自分から突っ込んでいったんだけどさ。

　桜咲いて中学三年生。
　例の番組は終わった。他に面白いアニメなんてなかった。所属していた３年１組と２組は校舎の三階、３～６組は二階。ヲタ仲間はみんな二階に行ってしまった。２組なんか同じ部活のヤツがゴマンといてそんな雰囲気じゃなかったし、同じクラスにヲタはいなかった。

　友だちは「セブンティーン」を見せてくれた。違う友だちは「ポップティーン」また違う友だちは「ライダース」（ヤンキー仕様バイク雑誌）を……。アニメ誌とマイバースディしか知らなかったから衝撃はデカイ。貸してくれるものは何でも読んだ。毛嫌いしてた少女漫画、紡木たくも成田由美子も面白いじゃないか！！
　そして恋をした。校則が緩くなって坊主がいなくなったからか？　１００万％片思い、単なる憧れだったが楽しかった。ボサボサだった髪を整え、制服の皺が着かない座り型を覚えた。近寄りもしなかったファンシーグッズ売り場で薄く色の付いたリップと透明マニキュアを買った。レモンの匂いのコロンなんぞも買った。

　受験生。しょっちゅう塾をさぼった。連れの家でたむろした。チャリンコで補導員と追っかけっこもした……嗚呼、青春の日々。アニメファンじゃなければ偽ヤンキー。のめり込んじゃう性格には変わりない……全く困った中坊だ。

　そんなほろ苦い激動の時代（？）はいつしか遠い過去となり、去年、久々に「かつてのめり込んでいた漫画」を見た。再会は妙に明るくてハイソな雰囲気の漫画喫茶。途中、ギリシャのお話しから海底のお話しに移行してつまんなくなってやめてたのだ。久しぶりに続きでも読むか……と冥界のお話しを手に取った。